2016年9月18日日曜日

朝日新聞 (核リポート)生きる尊厳奪われ…「ひだんれん」は闘う 

9月7日の朝日新聞に、武藤類子共同代表へのインタビュー記事が載りました。
ひだんれん発足から今日まで、2年間の歩みが語られています。

朝日新聞デジタル
http://digital.asahi.com/articles/ASJ924W30J92ULFA00Z.html?rm=1290
(核リポート)生きる尊厳奪われ…「ひだんれん」は闘う

小森敦司
2016年9月7日17時30分

経済産業省前や東電本社前をデモ行進する参加者たち=3月2日、東京都千代田区
ひだんれん共同代表の武藤類子さん



5年前の東京電力福島第一原発事故で、被害者は「生きる尊厳」を奪われました――。原発事故の集団賠償訴訟の原告団などが2015年5月に設立した「原発事故被害者団体連絡会(略称・ひだんれん)」はいま、住宅の無償提供の打ち切りなどの問題をめぐって、福島県との交渉に力を入れている。武藤類子・共同代表の話からは、事故から時を経て厳しさを増す被害者の実情が浮かぶ。

■「ばらばら」ではダメだ

――「ひだんれん」をつくった経緯は。

設立前年の14年11月のことでした。全国各地で東電や国を相手に集団民事訴訟をしている団体や、私が団長で東電の刑事責任を追及する「福島原発告訴団」など30団体が交流を深めようということで一堂に会して、原発事故被害者集会を開きました。終了後、このつながりをもっと広げていきたいね、という話が出ました。やはり、原発事故の被害者がばらばらのままではダメだと。裏を返すと、原発事故を終わったことにしたい「勢力」にとって、被害者がばらばらでいるというのは都合のいいことだと思ったのです。それで一緒にやれることは一緒にということで被害当事者の横断組織をつくろうと動き出しました。

――設立宣言では、被害者の思いとして、原発事故で「生きる尊厳を奪われた」と。

事故から時を経ても、しっかりとした賠償がなされていないと思う方が多いですし、子どもたちへの被曝(ひばく)対策もおろそかなままです。さらに国の帰還政策は、放射線はまだ残っているが、そこは我慢して暮らしてほしいというものです。被害者をあまりにバカにしている。それは、まさに人間の生きる尊厳を奪われていることにほかならない、と感じています。そして、この傷つけられた尊厳を取り戻すために、力を合わせ闘っていこうというのが、「ひだんれん」です。

■「本当の救済」を求めて

――設立宣言には、国と東電に対し、「本当の救済を求め」てとして、被害者への謝罪や完全賠償のほか、詳細な健康診断、医療保障などの「目標」を掲げています。

はい。例えば「謝罪」ということでは、東電幹部は交渉の場で、私たちに向かって、「申し訳ない、ご迷惑をおかけしました」と語ります。しかし、実は自分たちも地震・津波の被害者であって、加害者としての意識がないと思っているように見える時があります。端的なのは、福島第二原発の廃炉を東電はまだ受け入れていないことです。内堀雅雄・福島県知事が公に廃炉を求めているにもかかわらずです。そんな姿勢では、いくら「謝罪」を口にしても、私たちの胸にすとんと落ちません。

健康診断などの目標は、本来、福島県が東電や国に要求すべきことだと思います。いま、子どもたちの甲状腺がんの多発が原発事故の影響ではないのかと懸念されていますよね。これに対して、福島県が頼りにする専門家は、事故の影響とは考えにくいと断じています。しかし、多発は事実なので、きちんと原因を詳しく調べるべきだと私たちは思うのです。それで、設立宣言の「目標」に健康診断も入れました。

――内堀・福島県知事は「ひだんれん」の面会に応じていないんですね。

私たち「ひだんれん」が束ねる原告の数は約2万5千人になります。それでも、立ち上がったばかりの組織でまだ実績もないとみられてか、面会に応じていただけません。応対に出てくる県職員の姿勢もずっとかたくななままです。県の職員の方々には、私たちは同じ原発事故の被害者ですよね、と問いかけるのですが、本当に残念です。何より不思議なのは、いま、事故原因の調査で頑張っているのは、新潟県の泉田裕彦知事がつくった新潟県の技術委員会ですよね。なぜ、福島県でないのでしょうか。内堀知事がどう考えているのか、聞いてみたいです。

■住宅提供打ち切りは大問題

――来年3月に予定される住宅無償提供の打ち切りをめぐり、会として福島県との交渉に力を入れています。とりわけ避難指示区域外からの「自主避難」と呼ばれる方々の状況が深刻なようですが。

そうなんです。いわゆる「自主避難者」に対する支援が住宅の無償提供が中心だったために、これがなくなると生活がそれこそ逼迫(ひっぱく)します。なかでも、夫を地元に残している「母子避難」の場合は、二重の生活費がかかっているのでさらに深刻です。住宅提供の打ち切りは、彼女たちが避難先で5年かけてようやくつくりあげた生活を、またここで壊すということに他なりません。何とか、この打ち切りを撤回してほしいと、私たちは何度も県にお願いしているのですが、県は国との協議の中で決まったことなので、と門前払いです。

それで県は独自の支援策として、打ち切り後の1年目は月3万円、2年目は月2万円という家賃補助を打ち出しました。しかし、その後はそれもなくします。多くの方々は従来通りの無償提供による支援を願っています。

そもそも、なぜ、彼女たちは避難しなければいけなかったのでしょうか。それは、何より原発事故による放射線の子どもへの影響を心配したからです。彼女たちに何の罪もありませんし、彼女たちが苦しめられる理由はないはずです。無償提供にかかる県の費用負担が重たいのであれば、県はそれを東電や国に請求していいと思うのですが。(※注:福島県の住宅無償提供の打ち切り問題をめぐっては、山形県の吉村美栄子知事が8月29日の会見で、退去せざるをえない人々を対象に県職員住宅の無償提供を検討する考えを示した。こうした動きが他県に広がるか注目される)

■これでは「棄民政策」だ

――住宅の無償提供の打ち切りは、国による帰還政策に沿うものですね。国の避難指示の解除など帰還政策も早まっています。

国が帰還政策を急ぐのは、事故の被害者を見えなくしたいという思いがあるのでは、と疑っています。例えば、福島県内に約3千台ある放射線監視装置(モニタリングポスト)を大幅に撤去するという計画があるそうです。放射線を見えなくすることで、事故はもう終わった、事故が起きてもこんなに早く復活できる、そんなイメージを流布させたいようにみえます。原子力推進のためということなのでしょうか。これから原発を国内ではつくらないにしても、海外に売っていくとき、そうやって宣伝したいのかなと感じます。

2020年の東京オリンピックも、そのために利用しようという気がしてなりません。もう、日本は安全ですよ、というプロパガンダ(政治宣伝)です。怖くなります。福島の人であれば、誰しも、心の奥底に放射能への不安があるはずです。だけど、事故後は除染で仕事を得ているという人がいたり、昨今は復興が進んだという報道も増えたりして、とにかく早期帰還だし、それが復興なんだ、という風潮を感じてしまいます。

――しかし、国が「年20ミリシーベルトを下回ること」を避難指示の解除要件としたことへの不安を言う人は少なくない。

はい。20ミリという水準そのものが高いだけでなく、いたるところに線量の高いホットスポットや、除染廃棄物の「山」があります。汚染廃棄物も本来、放射性セシウムで100ベクレル以上は厳重に管理する必要があったのに、事故のあと、8千ベクレル以下は埋め立てることができるようになってしまいました。繰り返しになりますが、安全になったから帰すというのではなく、放射性物質はあるけど我慢して暮らしてね、というのが国の帰還政策です。どう考えてもおかしいことです。それこそ、被害者を切り捨てる「棄民政策」だと思います。

■刑事裁判の内容発信へ

――武藤さんは、東電元首脳らの刑事告訴を求める福島原発告訴団の団長でもある。2015年7月、東京第五検察審査会により強制起訴が決まりました。

ようやく扉が開きました。それで、私たちは、この裁判を通して、真相究明と責任追及をめざす「福島原発刑事訴訟支援団」という組織も今年1月につくりました。公判を傍聴して法廷の内容を分かりやすく発信していくつもりです。

裁判は本当に待ち遠しい。東電は高い津波のシミュレーションをしていたのに、なぜ対策を先送りしたのか。私たちがこんな目に遭っているところの真因ですので、私もその真実を心から知りたいと思っています。

――11年9月、東京であった「さよなら原発集会」で、武藤さんが壇上で宣言された「私たちは静かに怒りを燃やす東北の鬼です」との言葉が印象に残っています。

でも、怒りと悲しみは強くなるばかりです。事故もひどいのですが、事故のあとの対応にも、怒りを覚えます。もっと、どうにかなったのではと思うことがいっぱいあります。せめて子どもたちだけでも一時的にでも避難させることができなかったのか。なぜ、放射性物質の拡散予測システムSPEEDI(スピーディ)を住民避難に使わなかったのか。こうした点での関係者の責任もしっかりと追及されるべきだと思うのです。

私たちが刑事告訴を求めたのは、事故の責任をきちんと問わないから関係者の責任があいまいになり、ひいては、強引な帰還政策や早期の賠償打ち切りにつながっているのではないか、という思いがあります。さらには原発の再稼働も招いているのだ、と。だからこそ、同じ悲劇を二度と繰り返さないよう、責任をきちんと問う必要があるのです。


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